2015年11月4日水曜日

「見てるよサイン」を送り続けたい



学習態度に問題があると引き継がれたAくん(5年生)の話です。
勉強が嫌いだというのです。特に国語。実際、「漢字が書けない」と言っては泣き、「意味わかんない」と言っては泣き。文章を書くのはもってのほか。書き直しを促すと全てを消しゴムでゴシゴシ。ノートもぐちゃぐちゃ。泣きながら全てを投げ出して、机の下にうずくまり、いじけてしまいます。授業中は姿勢も悪く、鉛筆をかじったり、筆入れをくわえたり、ついには鼻歌まで歌ってしまう始末。もちろん、担任や仲間が注意するとなおさら投げやりで反抗的な態度をとってしまいます。

腹の立つことは多かったのですが、グッとこらえて、しばらくAくんの様子を詳しく見てみることを心がけてみました。声をかけてみたり、野球少年団の話を聞いたり、お手伝いをしてもらうようにたのんだりと、私との関わりを意識的に多くしてみました。また、授業中は注意するよりも、励ますことを中心にしてみました。できていること・がんばったことを中心に伝え、直してほしいことは「ついで」のように。とにかく、「見てるよサイン」を出し続けました。すると、少しAくんのことが分かってきました。
どうもAくんは勉強が嫌いではなくて、本当は「できるようになりたい」と思っているようなのです。いじけているのは、できなくて悔しくて、でも、どう行動していいか分からないからです。「意味が分からない問題に出会う」「みんなはできているのに「オレはダメな奴だ(泣)」「何もかもやだぁ(投げ出す)」学習態度を注意される「いじける」という悪循環が見えてきたのです。
そこで、Aくんと約束をしました。「分からないことは先生も一緒に考えるよ。だから、泣かないで『手伝って』と伝えること」「できないことがあっても、全てを投げださないこと」の2つです。ただ、約束はしたものの、一進一退を繰り返すばかり。そのうちに学習発表会の練習が始まりました。

合奏曲でのAくんの担当は鍵盤ハーモニカです。案の定、Aくんはすぐに壁にぶつかってしまいました。他の人はどんどんできるようになっていきます。Aくんはやっぱり悔しくて泣きました。あ~、また投げ出しちゃうのかと見ていながら、私は全体指導を続けました。
各自の練習時間になって、リコーダーパートを指導していたときです。Aくんが泣きながらぼくの背中をたたきました。「手伝うかい?」と聞くと、静かにうなずきました。はじめて自分から助けを求めてきたことに、私はうれしくなりました。「よくきたね!」と声をかけて、一緒に練習しました。Aくんは泣いたまま、ふてくされたまま。でも、なんとかリズムにのせて、指が動くようになりました(たったの4小節ですが)。
「できるようになったね!明日もあきらめないで、できるところを増やそう!」
励ましてはみたものの、Aくんの表情に変化はありません(ま、ここはいつも通りです)。ところが、その日のAくんの振り返りカードをみると、こう書かれていました。
「今日は山口先生といしょにれんしゅうしたので、できるようになりました。うれしかたです」(原文のまま)

その後、Aくんとは何日も一緒に練習をしましたが、結局全てをマスターすることはできませんでした。私にもう少し力があれば、完璧に覚えさせてあげられたし、その方がずっと満足感を与えられたかもしれない。こんなのは生ぬるいやり方で、もっと厳しくして早急に効果を出さなくてはいけなかったのではないかと、考えることもあります。なにせ私には励ますことしかできなかったのですから。でも、Aくんは確かに一歩進んだように思います。今は授業中もいじけることが少なくなってきているのは確かです。「見てるよサイン」を送り続け、励まし続けることは、無駄ではないんだなぁと感じています。
「できるところを増やす。できるところはこなす」ことで、自信をもって本番に臨んだAくん。本番後の振り返りカードの言葉には、こう書かれていました。
「がくしゅうはっぴょうかいは、ふけるとこはまちがいなかったので、たのっしかったです。100てんです」(原文のまま)
(山口淳一)

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