2017年10月29日日曜日

人間だもの

土曜日に勤務する中学校で吹奏楽部の定期演奏会があった。私は第二部の3曲目で指揮をすることになっていた。その曲を演奏する際に、サイリウム(ポキッと折ると光る棒。コンサート会場でよく見るアレ)を会場に配り、皆で曲に合わせて振るという演出になっていた。
開場前に、演出を担当する生徒が、サイリウムを3本束ねてテープでとめた棒を持ってきた。
「先生、これで指揮をしてください。始まる前に折ってください」とのこと。
「わかりました」
 しかし、ものの5分を経たないうちに、致命的なミスを犯してしまう。
 ここ数週間、演奏会や企画したイベントの準備に追われ、疲労は極限にまで達していた。背中の張りは尋常ではない。肩も背中もカチカチだ。
 部隊袖から入場してきたお客さんを眺めながら、無意識のうちに張っている背中に手にしていた棒を押しつけた。その棒は意外にツボにフィットする。
「あ、いいねえ」
と思った瞬間。
「ペキッ!」という音が背後から聞こえた。
 恐る恐る手にした棒を見ると、部隊袖の暗がりで折れた部分がぼんやりと光りだした。
 万事休すだ。出番まで1時間以上ある。その後、光る棒をそっと布に包み(効果のほどは疑問だが)、椅子の上に置く。このことに気をとられている時間はない。やることは山のようにある。司会との最終チェックや演出の打ち合わせに向かう。
一通りの作業を終え、自分の場所に戻る。ドカッと座った椅子に座ると、「ペキッ!」という聞き覚えのある音がした。手にした棒は「今、振ってくれ」と言わんばかりに光っていた。

 私は生徒の失敗を強くしかることの出来ない人間だ。なんで、そんなことしたのと言われても答えられるわけがない。年々私の寛容度が上がっているのは、自らの失敗の量と比例している。
 とは言っても、あってはならない失敗だってある・
 以前、家庭科の裁縫でクラスの子どもが巾着袋をつくった。その時提出された巾着袋を手に家庭科の先生が笑いながら、やってきた。巾着袋を上からさわると固い金属の手触りがある。しかし中に手をいれても巾着袋は空である。なんと布の間にハサミを入れたまま縫い上げてしまったのだ。
 これは手術の際に体内からメスを取り忘れる医療事故と同じだ。
あの子が医者になっていないことを祈るばかりである。

(千葉孝司)

0 件のコメント:

コメントを投稿